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2019-08

散々なる意匠

懐疑は恐らくは叡智の始かも知れない、然し、叡智の始まる処に芸術は終るのだ―― アンドレ・ジイド
パ、パチョレック?!――石川梨華




私は、ハロー!が何故にあらゆる意匠を凝して登場しなければならぬかを、少々不審に思ふ。私には常に舞台より楽屋の方が面白い。この様な私にも、やつぱり軍略は必要だとするなら、「搦手から」、これが私には最も人性論的法則に適つた軍略に見える。

そこで此度上梓された「Hangry and Angry」など視聴すると、まず第一に表現への衝動がない実存が作品具体化の過程で意匠を纏い、複製芸術産出の為の一単位となっている事に気付かされる。之を理解できぬ者などおるまい。

重要なのは「表現への衝動がない」といふところであり、之の根拠は作品を外在的に描写する言葉からはどうにも上手く説明できぬ態のもので、見れば解かる、読めば分かる、聞けば判る、としか言ひようがない。単なる事後的な実況しか出来ぬ領域の存在を予め認めることの肝要と寛容を、此処で強調しておきたひ。批評放棄と言われようと、赤は赤であり、赤の赤さが赤として伝わっているだろうと仮定して、言葉を紡がざるを得ぬのは、証明不能、証明不要の公理である。私の赤は他者の赤ではないのか? そこを問うてしまうと、必然的に沈黙に陥ることになるのだ。

此処を問うてしまうと、又別の領域の問題に逢着してしまい、話が進まず、能産性を失ふ事となる。根本的にはさふした捨象によって、商売なり、藝術なり、現実なり、人生なり、「Hangry and Angry」なり、は成り立っている。

其れは別段、出鱈目、当てずっぽうという劣悪な態度ではない。劣悪を指嗾しない如何なる崇高な言葉もなく、崇高を指嗾しない如何なる劣悪な言葉もない。楽屋から舞台へ伸張する「地下茎」の様相をを、ひとつひとつ肯定的に指差し解読する時間は、何度、どのうよふに考へても、人生に於ひて過ごす時の中でも劣悪なそれではないだろう(「地下茎」とひうタームに特別な残響、余韻を感じ取る向きには「織物」でも良い。それもまたひとつの意匠であり、そこに深遠な意味などない)。

「Hangry and Angry」であれば、「オトラント城奇譚」を嚆矢とするゴシック・ロマンス(not ROMANS〔from “セクシー女塾”〕)の恐怖と暗黒の物語系譜から始まり、存在の刹那美を電気の若武者たちが痙攣しながら体現した70年代グラムロック、揉み上げ剃り落とし&肩パッド入りジャケットなスタイルで小林克也の英語を引き立てたHUMAN LEAGUE以降のニウウェイブ風エレポップ、ミレニアム以降の少女趣味に阿ったロリータ性と結合したゴシック、つまり「ゴスロリ」、石川梨華の排便に関する実在性問題等・・・・・・逐一要素に分解し観察すれば、分解したユニツトは無限に増殖する悦楽的能産性を保持してひる。

逆説的な言辞を弄せば、かふした姿勢ははたゞ一つの意匠をあまり信用し過ぎない爲に、寧ろあらゆる意匠を信用しようと努めたに過ぎない。しかし、之の分割的能産性は、手術台の上で解体された要素を相対化して悦に入る修正的歴史主義とは異なり、少し許り積極的な態度を、読者、視聴者、愛好者(をた)に求める態度でもある。かうしたアティテュードを採る限り、継ぎ接ぎだらけの猫面縫い包みと同じように、綻びが目立つ継ぎ接ぎ音像も、容易に許容できるのだ。

こう考えてくると“よしりん*1なる不可解かつ未聞の存在も、おそらく記念写真の肩口で不気味にに笑ふ幽霊のようふな第三者のメンバアを指示しているに相違なく、「Hangry and Angry」の持つ、覗き込むと飲み込まれてしまうよふな深遠を伺わせる記事ではある。ボオドレエルに拠るまでもなく、「最初に笑ふ者が最も笑われるのがハロー!」である事を再び深く胸に銘記し、「つぅんく仕掛けの毒オレンジ」に掛からぬよう、此処で注意を喚起しておく。

「Hangry and Angry」からの挑発を、葡萄酒片手のトルバドゥールのよふな振る舞ひで、多義的で笑ひに満ちた豊穣な時間とするか、正誤表を持ち出して点数を付ける教員の如く杓子定規的に青筋立てて糾弾する時間とするかは、読者(をた)の自由であり、最早批評の及ぶ領域ではない。

 *1 「これがあの“よしりん”!? 吉澤ひとみと石川梨華のハードさにビックリ」http://digitallife.jp.msn.com/article/article.aspx/genreid=99998/articleid=476929/date=0/page=1



▲この人がよしりんかも?


▲「内側から崩れてゆく 形だけ残して 指の隙間すり抜けてゆく お前の全てが」
あ、ジュネさんに「Hangry and Angry」にお願いできないかな?
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vivahiko

Author:vivahiko
横浜市出身。法政大学文学部哲学科卒業。既婚。一男一女に恵まれる。かつて人文科学系/サブカル系書籍編集者にして、モーヲタ(モーニング娘。ヲタク)でした。ここでは主にハロプロを中心とするアイドル音楽批評を書き連ねてみたいかと。
twitter:http://twitter.com/vivahiko

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